▲ジルとヘンリ、二人の「タイガー」
●F1-Facts.comより http://f1-facts.com/overview/person/GillesVilleneuve
●F1-Facts.comより http://f1-facts.com/results/race/1981/Monte_Carlo
1 ジル・ビルヌーブの魅力
F1界の「伝説のフェラーリ・ドライバー」ジル・ビルヌーブ(カナダ、1950-1982)のことをいつか書いてみたいと思っていた。ジルが1982年5月2日、ゾルダー・サーキットで行われたベルギーGP予選走行中に時速250kmでクラッシュしてこの世を去ってから既に丸24年、今なおジルを懐かしみ、ヒーローと称えるF1ファンは多い。いつもF1やモータースポーツのネタでお相手いただいているFUMMYさんの記事「ジル・ビルヌーヴの栄誉をたたえるセレモニー開催では、この前のサンマリノGP開催に合わせて、サーキットのあるイモラ市内でセレモニーを行い、市内の広場に彼の名前が付けられたのだという。
ゾルダーで天に召された時の彼のカーナンバー「27」は、1981年～1995年の間フェラーリのエースナンバー(ちなみに1990年だけは前年マクラーレンでタイトルを取ったアラン・プロストがチャンピオンナンバー「1」をひっさげてフェラーリに移籍して来たため、故アイルトン・セナがカーナンバー「27」)だった。後にこの「カーナンバー27のフェラーリ」をドライブすることになるジャン・アレジの「尊敬するドライバー」は歴代のチャンピオンではなく他ならぬジルだったし、自分のクルマにジルのネーム・ステッカーを貼っていた(当ブログのタイトル画像ご参照)私は、傘立てでも下駄箱でも、無意識のうちに「27」番を探してしまう。27が空いていなければ127番、それも駄目なら227番･･･といったように(笑)。
それはさておき、上でご紹介した記事でやりとりさせていただいたコメントの中で、FUMMYさんは「なぜこんなにもティフォシ達の心を掴んでいるのかが興味深いんですよね。」と書かれているが、平たく言えば、それはジルが「タイガー」だったから･･･といえるだろう。彼がドライブしていたフェラーリは必ずしもその当時のトップ・マシンというわけではなかったが、それでもジルはフェラーリを振り回しプッシュし続け、絶妙のマシン・コントロールで数々の勝利をマークした。1976年から82年の７シーズンで、ジルがマークしたポール・ポジションはわずかに２回･･･彼のアグレッシブなイメージからすると意外な感がするが、それに対する優勝は６回、そのことひとつ取っても彼が「タイガー」だったことが伺い知れるのではなかろうか。
2 もう一人の「タイガー」、ヘンリ・トイボネン
視点を少し転じてみれば、ラリー界にも、ジルと同じように激しく攻め続け、若くしてこの世を去ったドライバーがいる。1986年5月1日、WRCツール・ド・コルスでランチア・デルタS4を駆って首位走行中に崖から転落、コ・ドライバーのセルジオ・クレストとともに29歳の短い生涯を終えたヘンリ・トイボネン(フィンランド、1956-1986)である。彼もまたジルと同様に「タイガー」だった。WRCのマシン・トレンドが4WDターボへと移行していく1980年代初頭の流れ(その中心にあったのがアウディ・クワトロとプジョー205)の中で、タルボ、オペル、ポルシェ、ランチア･･･とチームを渡り歩いていった彼のラリー・キャリアは必ずしも恵まれたものとは言えなかった。それでもヘンリはラリーの序盤からリードを奪おうとひたすらプッシュし続け、その中でマークした３回のWRC優勝(1980・1985RAC、1986モンテカルロ)は、ジルのF1での６勝と同様にそれぞれドラマに満ちた珠玉の輝きを放っている。
ジルの通算６勝、ヘンリの３勝、長いモータースポーツの歴史の中で、「記録的には」彼らよりも優れたパフォーマンスをマークしたドライバーはもちろん数多くいる。それでも彼らのひたすら前だけを見つめてプッシュし続けたドライビングは人々に語り継がれ、没後20年以上経過した今なおモータースポーツファンの、そして後の時代の当のドライバーたちにとっても「ヒーロー」であり続けている。ジルとヘンリ、彼らはいわば「記録」よりも「記憶」に残るドライバーだと言えるだろう。ジルについては、上記のとおり今なお彼の「栄誉を称える」イベントが開催され、ヘンリについても、同時代のラリーストだったミッシェル・ムートンが1988年に企画したヘンリ追悼のラリーイベント「レース・オブ・チャンピオンズ」は今なお歴代チャンピオンや、現役のトップ・ドライバー、最近ではF1ドライバーなどサーキット・レースのドライバーも参加するビッグ・イベントとして毎年行われている。
･･･と今回はいったんここで切りましょう。次回は「作られた神話、作られた伝説？？？」の予定です。
