▲特別編：フォーエバー・ヤング、コリン・マクレー～突然の悲報

突然の悲報

第一報を聞いた時の感想は、月並みではあるが「え、何で、どうして」というものだった。

確かにコリンといえば、「懲りん・マックラッシュ」と言われるように「むちゃくちゃ速いけど勢い余ってクラッシュ」というイメージがあったが、それでもいつも本人はシレっと平気な顔で動ぜず、リタイヤどころかヘタをすればメタメタになったマシンを入賞圏内でフィニッシュさせて帰ってくるほどの勝負強さとしぶとさがあった。

かのアイルトン・セナが94年のサンマリノGPで亡くなったときにも同じことを感じたのだが、よもやコリンが「クラッシュしてこの世を去る」などとは思ってもみなかった……でも今回はいくら何でも相手が悪い。ヘリコプターでのクラッシュはさすがのコリンでもどうしようもなかっただろう。

それでも乗っていた自家用ジェットが墜落し、バラバラになってもなお今だにF1シーンの「いぢわるじいさん」として君臨している同郷のデビッド・クルサードのような例(2001年)もある。DC先生のような強運というか悪運がコリンにもあれば、いや彼こそがそういう強運の持ち主だったはず、と思わずにはいられない。

「コリンは車の中では常にリスクを恐れなかった。でもヘリコプターで飛ぶときは全く違う人間になった」

「彼は『ヘリコプターをなめてはいけない。自分より大きいし優れているから、それなりの扱いをしなければならないんだ』と常に僕に話していた」

F1通信:コリン・マクレーへの追悼 - F1界からのコメントと関連動画

上のコメントは、1997年～2002年、2005年と7シーズンの間コリンとコンビを組んだウェールズ出身のコ・ドライバー、ニッキー・グリストのものである。

それにしても、何というアイロニーなのだろうか。

ラリーマシンに乗ったコリンは、文字どおり「恐いもの知らず」だった。コースアウト、転倒、クラッシュ……スバル時代初期のチームメイトで彼の師匠格だったアリ・バタネン(1981年WRCチャンピオン)の引き写しかのような「生傷の絶えない」激しくアグレッシブなドライビングはタイトルを獲った後も生涯変わることがなかった。しかも、闘将カルロス・サインツ(90、92年WRCチャンピオン、94～95年スバルでコリンのチームメイト)が「コーナーで息を止めたら２秒縮められる」とドライブ中は鬼のような形相になるのとは対照的に、コリンは全開でアタックの最中も普段と変わらない涼しげな顔だったという。

しかしヘリの操縦は、ラリーマシンとは違って事故の際には生命の危険度が格段に高くなる。グリスト氏のコメントのとおり、コリンはそのことを常に意識し、慎重な操縦を心がけていたのだろう。にもかかわらず、メカニカル・トラブルか、操縦ミスか詳細は今だ明らかではないが、たった１回の事故がコリンと５歳になる息子ジョニー、そして友人とその子供の命を奪っていった。

この「書庫」、”ジルとヘンリの神話作用”は、その名のとおりF1とWRCの希代のファイターにしてチャージャーだったジル・ビルヌーブとヘンリ・トイボネンのドライビング・キャリアを検証していく記事を収めていく予定だったが、今回は、「特別編」と題して、コリン・マクレーのドライビング・キャリアについても併せて触れておきたい。

ジルやヘンリとは異なり、コリンはハードでワイルドなドライビング・スタイルはそのままで世界タイトルにたどり着いた。そしてチャンピオンこそ１回にとどまったものの、歴代４位となるWRC通算25勝をマークしている。ジルやヘンリが「記録より記憶に残るドライバー」なら、コリンは「記録にも記憶にも残るドライバー」と言えるだろう。しかもカルロス・サインツ、ユハ・カンクネン、ミキ・ビアシオン、ケネス・エリクソン、トミ・マキネン、フランソワ・デルクール、ジル・パニッツィ、リチャード・バーンズ、マーカス・グロンホルム、ペター・ソルベルグ、マルコ・マルティン、そしてセバスチャン・ローブ……等々挙げていけばきりがないが数多くの強力なライバルに囲まれてマークしたパフォーマンスだった。

最後に、コリン・マクレー氏をはじめ今回のヘリコプター事故で亡くなった４人の方々の冥福を心からお祈りし、今回の稿の締めくくりとしたい。