●第2回:「前幌」が成立する条件

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基本はMc+M'cの2連・・・ラッシュ時の4両化に対応するため貫通型にして幌を装着したJR加古川線103系3550番台



1 「貫通幌」とは


貫通幌とは、読んで字のとおり、貫通路、つまり車両間を行き来する通路の一部を構成すると同時に行き来する人を防護するための覆い、ということができるでしょう。と、なれば、本来は車両と車両の間に存在するアイテムであって、それが車両の前面に存在するのは「本来の在り方ではない」ということになります。

にもかかわらず、現実には「前幌」を付けた車両が日本全国所狭しと、またいくつかの国においても風をはらみながら疾走しているのはなぜでしょうか・・・? 装飾のため? 見た目が格好いい? それは私個人の単なる趣味です(笑)。「風をはらみながら疾走」と書けばもっともらしいですが、エアロダイナミクス(笑)的には当然不利だし、分厚い幌はドライバー、もとい運転士さんの視界にも良くないでしょう。

それでもなお、現実に前幌付きの車両が存在するのはなぜか・・・を以下で考えてみようと思います。


2 「編成の固定」と編成間の併合・分割


ご存じのとおり、鉄道車両は、「編成」単位で運用されています。昔は日によって編成が変わっていた、つまり車両の組み合わせが頻繁に変わっていたそうですが、現在では編成はほぼ固定化されてきています。特急型の車両の中には、半永久的に編成を固定化しているものや、台車が連結部にあって複数の車両で共有するような「連接台車」があったりします。

ただ、現実の車両運用の中では、編成同士を併合したり、分割したりを繰り返すわけで、ちょっと幌の話からは逸れますが、概ね以下の場合に編成を併合・分割すると考えられます。

1) 乗客数の変動に対応し、列車の車両数を変えたい場合
乗客数の変動・・・季節による変動もあれば、1日のうちラッシュ時とデータイムといった時間帯での変動もあり、また、路線間での変動という要素もあるでしょう。
2) 行き先の異なる列車を同時に出発させたい場合
かつてのキハ58系の「多層立て」の急行・・・東北地方とかには1回離れてまたくっつくというアクロバティックなのがあったりしました。
3) 車両運用のやりくり上で貫通編成が組めない場合
車両の転属等によって置き換える場合によくみられます。現在、大阪環状線103系東海道線の201系で置き換えられようとしていますが、中間の付随車不足が懸念されており、現に4連×2のものが運用に就いています。


3 編成間の行き来について


では、編成同士をくっつけた場合の扱いについては、概ね以下の3通りに分かれるでしょうか。

1) 編成同士の行き来をさせない
新幹線の場合、もともと空力を考慮して非貫通タイプの流線型で設計されていますから、400系つばさとか、E3こまちをやまびこの本編成に連結するときは当然この扱いになります。また、JR西日本221系、223系や207系は貫通型になっているにも関わらず編成間の行き来はできないようになっていますが、この場合の貫通路は編成間の行き来のためというよりは非常口として設計されているからでしょう。
2) 乗務員だけが通行できる
踏み板(桟板)と手すりだけを備えて非常時等に行き来できるようにしたもので、日本ではあまり例がないと思われます。スイスの登山鉄道などでは、スピードも遅いので車掌さんの移動のためこういうパターンが多いようですが・・・。
3) 乗客も通行させる
先頭車にも貫通幌と踏み板(桟板)を備え、編成併合時も乗客の通行を可能にしたもので、ここに「前幌」が成立する余地があるわけです。


4 編成分割時の幌の扱い


それでは、3-3)のケースで、編成同士の併合をしていない場合、つまり幌が使われていない場合の扱いを考えてみましょう。大きく分けると以下の3通りになるでしょうか・・・。

1) 取り外して保管しておく
2) 車両の中に収納しておく
3) 車外に装着したまま折り畳んでおく

まぁ、本来は1)なのでしょうが、頻繁に編成の分割・併合を繰り返す場合は幌の運搬・装着に手間と時間がかかって非効率的ですね。京浜急行の旧1000形などは運用をうまくやりくりしているからなのか、わりとマメに付けたりはずしたりしているようですが・・・ホロフェティスト的には「前幌付きの編成」をゲットしにくい、つまり撮影しにくいということになってあまりよろしくないのですが(笑)。

また、貫通扉をプラグドアにして幌を車内に収納する2)がある意味理想で、近鉄ビスタカーとかJR東海383系JR東日本のN'EX等採用例はありますが、何といってもやはりコストがかかるようで、全面的にこのタイプにしてしまうのは難しいと思われます。実際の採用例も特急形車両中心となっていますが、泉北高速鉄道7000系のように一般型車両の採用例もあったりします。ホロフェティスト的にはこういうのはご勘弁願いたい・・・かといえば、私は最初そう思っていましたが、貫通扉の内側にほのかに見える幌の「チラリズム」(って何なんだ)もまたイイのではと今では思っています・・・ってヘンタイか(笑)。

3)が一番簡単で、もちろんホロフェティシズムの王道なわけですが、空気抵抗は増えるし、運転席からの視界も悪くなるというデメリットが当然あるでしょう。ただ、それほど高速で走行するわけではない通勤・ローカル運用の場合はそれほど問題にならないのかもしれません。このあたり、コストと利便性を比較検討した事業者の判断になるものと思われます。

あと、2)と3)の中間的形態として、「前面埋め込み型」、つまりキハ181系のように車両の妻面と面イチになるように埋め込んで収納しておく、というタイプがあります。このタイプは、幌座の部分を凹ませておく必要があり、かつてはこの部分に雨水等が溜まって腐食しやすいというのが泣き所だったようですが、素材等の改良がなされて、第三セクター気動車等に採用例が増えてきているようです。


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三セク気動車の「埋込型」採用例 KTR(北近畿タンゴ鉄道)のKTR700形



5 まとめ:「前幌」が成立する条件


これまでをまとめると、「前幌」が成立する条件は次の1)~3)を満たす場合ということになるでしょう。

1) 編成間の併合・分割を頻繁に行う場合
2) 編成間の乗客の通行を可能とする場合
3) 幌未使用時も装着したまま車外に保管または車内に収納しておく場合

ともかく、私のようなホロフェティストは、鉄道事業者のこういった諸条件を考慮した上での判断をある意味「楽しませていただいている」わけですから、常に感謝の念を忘れないようにしたいものです。

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幌付車両の保存は大変かと・・・加悦鉄道キハ1018