●第23回:幌の制作メーカー

今回の「貫通幌のガイドライン」は、幌の制作メーカーについてのお話です。


貫通幌は、一体どこが作っているのか…川重や日車、東急や日立といった車両制作メーカーが幌まで作るのか、それとも別に幌に特化したメーカーがあるのでしょうか……。


1 成田製作所(愛知県名古屋市)


鉄道車両のパーツ 製造現場をたずねる」(2004年・石本祐吉氏著)によれば、成田製作所(本社:名古屋市熱田区/創業・1938年)が日本の鉄道車両の幌の90%を生産しているようです。

戦後の1946(昭和21)年から幌の製造を手掛け、現在では輸出用車両を含め、わが国の鉄道車両の幌の90%を生産している、とはいっても幌だけではそれほど大きなマーケットではないので、同社では車両用ドアや空調ダクト、燃料タンクなどの板金製品のほか、オートバイ部品などを手広く製造しており、幌は売上の10%に過ぎないという。
(「鉄道車両のパーツ 製造現場をたずねる」46ページより/太字はo_keke_nigelによる)


上記の公式webページの「製品」の項を実際に見てみると、確かに鉄道車両の部品だけではなく、スキーキャリア、RV車のリアラダーやシートのフレームといったクルマ関連のパーツ、変わったところでは冷凍コンテナやシャワールーム、高速道路裏面の吸音パネルといった変わり種に至るまで本当に幅広く関わっているのがわかります。本筋(?)の鉄道車両部品についても、ドアシステムや幌でも自動連結幌(使用例としてJR九州の813系電車の写真あり)、新幹線用の一体型ダイヤフラムタイプの幌や外幌といったラインナップです。


イメージ 1

成田製作所webページより 「製品1」近郊電車用自動ホロ


ちなみに、石本氏の「鉄道車両のパーツ 製造現場をたずねる」では成田製作所の幌制作の過程が紹介されていて、文章だけで表現するのも些か難しいのですが(笑)…以下の工程で幌が制作されているのがわかります。なお、同書は私が確認した範囲では、幌について詳細に記述しているほとんど唯一の書籍だと思われます。

(1) 幌枠など各種形材の打ち抜き、寸法検査
(2) 幌枠と幌骨の仮組
(3) 幌布にミシンで幌骨を縫い込む。
(4) ミシン目に防水加工
(5) 実物大車端妻面試験装置に幌を取り付け、各種試験を行う。


2 その名も「ジャバラ」(大阪市)


国内で貫通幌を制作しているメーカーとして他に確認できたところに、その名も「ジャバラ」というまさに名が体を表しているメーカー(本社・大阪市東淀川区/創業・1961年)があります。


同社の公式webページによると、社名のとおり、蛇腹形状の各種配管継手やフレキシブルジョイント、空港や港で使われている通路やスライドシャッターやキャノピーフード等多岐に渡る製品展開をしており、その一環として鉄道車両の貫通幌も製造している、といったところでしょうか。

あと、同社のwebページで面白いのは「ジャバラ物語」というコーナーで、貫通幌については、まだ直接は触れられていません(今後コンテンツの追加で幌の話も出てくるか?)が、ジャバラ状の製品の構造や特徴がわかりやすく説明されています。

ジャバラの形状は、ちょうちんに似ています。
ちょうちんは、竹ひごで作るフレーム、和紙で作る膜、和紙の表面に塗る防水剤、和紙が縮んでできるジャバラ状のひだ、竹ひごと和紙を接着する糊でできあがります。

一方、工業用途で活躍するジャバラは、竹ひごが鋼のリング、和紙がナイロン、テトロン、セラミック織物などの膜材、織物の表面に被覆した合成ゴム、テフロンなどの材料、膜材の伸びを利用したヒダの形成、膜材の物理特性にあわせた特殊接着剤。
ジャバラの構造は、まさしく「ちょうちん」そのものです。
(「ジャバラ物語」冒頭部分より/文中太字は原文のまま)

なるほど、「ちょうちん」ですか…。貫通幌で言えば、竹ひごが「幌骨」、和紙がゴム被覆で防水加工された「幌布」とその布が縮んでできるジャバラ状のヒダの形成、接着する糊が、「幌骨を幌布に縫い込むミシン加工」……以前、「●第4回:幌の形態いろいろ①ジャバラタイプ」で「アコーディオンのイメージに近いか」と書きましたが、むしろ構造的には「ちょうちん」と言った方がいいのかもしれません。


3 海外の幌制作メーカー


それでは、今度は目を海外に転じてみましょう……とその前に、「貫通幌」とは例えば英語で何と言うのか、ちょっと調べてみました。

先述の「鉄道車両のパーツ 製造現場をたずねる」によれば”vestibule diaphragm”、”bellows”(同書27ページ)、また、成田製作所のwebページの英文コンテンツによれば”gangways (for rolling stock)”

”vestibule”とは直接的には「デッキ」(日本語訳では「出入り台」というそうですが)、”diaphragm”(ダイヤフラム)とはジャバラというよりは一体型のチューブ状のモノ(新幹線の幌とか)のイメージがあります。”bellows”を英和辞典で調べてみると「ふいご」、鉄を打ったりするときに空気を吹き込むためのもの(「たたら」ともいうようですが)や、オルガンを演奏するときに空気を吹き込む足踏みのペダルとかのことで形状はさまざまですが、中にはジャバラ形状のモノがあるようで、普通にイメージされる「幌」といえば、こちらの方かもしれません。

<参考>
◆ふいご(「宮廷のミュゼット」(上尾直毅さん)より)
◆鞴 -Wikipedia

また、”gangways”とは鉄道用語としては幌そのものよりは「貫通路」という訳語の方が一般的なようですが、貫通路自体幌(と踏み板)で構成されていることを考えれば、「貫通幌というシステム全体」としてはこの表現が理にかなっている、とも思われます。ちなみに、日本語で「ギャングウェイ」と言えば、船に乗るための通路、橋を指すことが一般的なようです。

…はともかくとして、これらの英訳語をキーワードにして調べてみたところ、ヒットした幌制作メーカーにHubner(正式にはuの上にウムラウト)社がありました。Hubner社はその語感のとおりドイツ・カッセルに本拠を置き、フランス、イタリア、ハンガリー、ロシア、スウェーデンアメリカ、ブラジル、中国…と世界各国に事業展開している部品メーカーで、鉄道車両だけでなくバス、自動車、飛行機搭乗口のスライドシャッター・キャノピーなど多彩な製品展開をしているようです。



イメージ 2

Hubner社の幌製品


上のスクリーン・ショットは”railway-technology.com”に掲載されたHubner社のホロ・プロダクツ(笑)で、どちらも英国の鉄道車両左がClass375電車(Bombardier Electrostar)、右がClass458電車(Alstom Juniper)です。いやぁ…どちらも豪快なホロ具合…特に収納タイプのClass458の飛び出た幌は豪快そのもの(笑)。海外幌フィールドワーク、東の台湾、西のイギリス…ぜひ行ってみたいですね。


今回は幌制作メーカー…ということでしたが、部品メーカーでジャバラ状の製品を作っているところが鉄道車両の幌も製品展開の一つとしてラインナップに入れているという事情がよく分かりました。また、ジャバラ状のモノは幌に限らず生活の中のいろいろなところにあるのだということもわかりましたが……いや、洗濯機のホースにまで「萌えて」しまったらどうしましょう……ヘンタイかオレは(爆)。


イメージ 3
<クリックすると大きくなります>

この幌も「NARITA」ブランド? JR東日本八高線キハ110-219 2005年1月 高崎駅



次回は、これまでの「貫通幌のガイドライン」総論編のまとめを予定しています。