●第30回:韓国の鉄道車両の連結幌(1)

「貫通幌のガイドライン」各論編……今回は、昨年秋に訪問した韓国の鉄道車両の連結幌についての考察です。

韓国の鉄道については、「海外鉄道・バスの旅」書庫の記事で色々とスナップをご紹介してきましたが、ここでは「幌」に特化してまとめてみたいと思います。

日本の鉄道車両がいわば「前幌天国」(?)なのに対して、韓国では車両の前面に貫通幌を装着している例はほとんど見られません。その要因としては、都市間の中・長距離の旅客列車はほとんど機関車牽引の客車列車、あるいは両端機関車牽引のプッシュ・プルトレインで、一方では大都市周辺の広域電鉄線の電車も固定編成となっていて編成間の分割・併合がほとんどない運用になっていること等が考えられます。つまり、第2回:「前幌」が成立する条件でも述べた「前幌が発生する条件」が韓国の鉄道ではまず見られない、ということになるでしょうか。

唯一の例外と思われるのは、1960年代に導入された日本製気動車で、「韓国の鉄道」(JTBキャンブックス)に前幌を装着した9501形ディーゼル動車の写真が掲載されています。

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「韓国の鉄道」(JTBキャンブックス)P78 より


上の写真は、その「韓国の鉄道」の該当部分(P78)で、トンイル号塗色の9501形ディーゼル動車のスナップが収められています。日本製気動車は続編の「韓国鉄道の旅」によると、2両あるいは間に客車を挟んだ3両で運用されることが多いようで、たまたま単行運用の列車のショットだったのか、あるいは分割・併合の合間にたまたま撮影されたものなのかはわかりません。ちなみに、前幌装着の日本製気動車のショットは「鉄道ピクトリアル」誌でも見かけた記憶があります……と、昨日梅田の古本屋さんで見つけて来ましたので買ってきました。No.696(2001年1月号)「鉄道車両・技術の輸入と輸出」の43ページにその画像があります。


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ソウル駅 2006年10月


……ということで、「前幌」が観測できないのなら「幌そのもの」を観測してやろう、というのが今回の記事のテーマです(笑)。上の写真3枚は、韓国で最もポピュラーな優等列車(というよりは日本的には特急から各駅停車まで幅広いレンジを担う)であるムグンファ号の専用客車12001形のスナップです。この客車で使用されている幌はヨーロピアン・スタイルのゴムチューブタイプで、上辺+左右とゲート状に組み合わされています。

1枚目の写真は、ソウル駅の側線に留置されていたムグンファ号用客車12001形+電源車(長大編成用)99501形の車端部のスナップで、12001形の連結部はその下の2枚、撮影後に実際乗車した釜山行きのムグンファ号のスナップです(◇【第4回】KORAIL・ムグンファ号(1)ソウル駅にて参照)。チューブタイプの幌は単体で見ると結構ボリュームがあるように感じられますが、連結状態ではかなりタイトに押しつけ合っているのが分かるでしょうか。


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今度は12001形客車+電源車99501形の電源車側から撮った写真、3枚上の写真の反対側ですが……こちらにも律儀に(?)幌が装着されています。通常乗客は電源車を通行することはなく、また電源車は編成の端にアレンジされるので幌は必要ないと思われるのですが、列車クルーの通行のため、あるいは非常時に乗客も通り抜けられるように、ということでしょうか。


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最後は、KTX開業前には最優等列車として君臨していたセマウル号用の専用客車。こちらもソウル駅の側線に1両ぽつんと留置されていたものをスナップしてみました。手前に見えるのはソウル発着の電鉄線電車が使用するホームです。プッシュ・プルタイプの両端ディーゼル動車の中間に連結される301形なのか、機関車牽引の客車編成の11101形なのかはこの状態ではわかりません(仕様はどちらもほぼ同一)が、いずれにせよ幌がムグンファ号とは異なり、日本風のジャバラ式になっているのが特徴的です。

アーム状の幌吊りがないことから、片持ち式の一枚幌だと思われますが……ムグンファ号セマウル号で幌のスタイルが異なるのは何故でしょうか。設計のベースとなったのが、片やヨーロッパ、片や日本、ということなのかもしれません。


今回は現役客車の幌でしたが、次回も引き続き、韓国鉄道博物館に保存されている旧式の客車の幌に迫ってみたいと思います。