●第40回:「南海・近鉄タイプ」の幌座~「幌座のいろいろ」(6)

「貫通幌のガイドライン」、今回の記事は「幌座のいろいろ」シリーズの最後として、「南海・近鉄タイプ」の幌座のレポートと、これまで取りあげてきた「幌座」についてのまとめです。それでは、まずこちらの写真からご覧いただきましょう。


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★南海6000系モハ6003(左)橋本駅/近鉄6020系モ6043(右)阿部野橋駅(はてなフォトライフ)
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1「南海・近鉄タイプ」の貫通幌



今まで上記の記事等で何度か「南海・近鉄タイプ」の幌をとりあげてきましたが、今回は上の写真のように両方並べてみました。どちらの幌も、通常の幌には装備されている「幌布先端部の幌枠」がない(より正確に言えば、先端部の幌骨が幌枠の役割を受け持つと思われる)のが特徴的で、しかも幌の垂下を防ぎ形状を保持するための幌吊もありません。また、編成の併合・分割を繰り返して幌を引き出したり畳んだりする機会が多いためなのか幌布がクシャクシャとまとめられているワイルド感もまたこのタイプのアピールポイント(?)となっています。

こうやって実際に並べてみるといかがでしょうか? 

南海と近鉄では、幌骨の形状が微妙に違っていて、特に四隅のRは南海の方が若干きつくなっているところは確かにあるものの、幌全体としては、ほとんど同じようなたたずまいを見せています。

南海高野線用の6000系の製造初年は1962(昭和37)年、一方近鉄の中の狭軌(1067mm)線である南大阪線用の6020系の製造初年は1968(昭和43)年となっていますが、そのオリジナル系列ともいうべき6000系は1963(昭和38)年と、南海6000系とほぼ同時期の設計です。南海・近鉄とも、もともとは、コンベンショナルな「ダンパー式幌吊を装備した2枚幌」を開業以来使用してきましたが、1960年前後に相次いで登場したカルダン駆動の新性能車あたりから、上の写真のようなタイプの1枚幌を使用するようになったと思われます。

ちなみに「南海・近鉄タイプ」の幌、とは当然私がそのように便宜的に呼んでいるだけであって、鉄道趣味界でオーソライズされている用語ではありませんのでご注意願います。

では、今回の「本題」(いつもながら前置きが長すぎる)である「幌座」の方はどうなっているか、次の写真をご覧ください。


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★南海6300系クハ6731(左)橋本駅/近鉄6020系ク6135(右)古市駅電留線(はてなフォトライフ)
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2「南海・近鉄タイプ」の幌座


いかがでしょうか。

幌座の形状は先ほどの幌骨の形状とそれぞれ一致していて、南海の方が若干四隅のRがきつくなっており、また幌を受けて固定するためのクランプの位置と個数に相違がありますが、いずれもこれまで見てきたタイプとは全く異なる「細溝レール」とでも言うべき形をしています。この幌座の形をよく見てみるまでは、実を言うと何故「南海・近鉄タイプ」の幌には、例えばJRの113系などに見られるようなはっきりとした幌枠がなく、幌骨の先端が幌枠を兼ねているような形をしているのかよくわかりませんでした。しかし、こうやって最初の写真(幌付き)と次の写真(幌座)を見比べてみると、連結時には、幌骨の先端が「細溝レール」の幌座に填り込み、そこをクランプで固定するというイメージでしょうか。

他にいい名前が思いつかないこともあって、このタイプの幌/幌座を「南海・近鉄タイプ」と便宜的に呼んでいますが、それにしてもよくわからないのは、なぜ南海と近鉄の使用する幌が同じタイプなのか、ということです。このタイプの幌は汎用的なものというよりは、些か特異なタイプと思われ、そういうものをそれぞれ別々の事業者が同様に使用するのは何故なのか、という疑問をどうしても感じてしまいます。

戦時中から戦後(1947年ごろまで)にかけて、南海(当時の社名は「南海鉄道」)が国策上の要請もあって近鉄に吸収されていた時期が確かにありました。とはいえ、その時期に使用していたのはどちらもコンベンショナルな2枚幌(ダンパー式の幌吊装備)で、現在同じタイプの幌/幌座を使う理由にはなりません。ちなみに南海の車両は、6000系以降はステンレス車輌のスペシャリストの東急車輌製、近鉄は関連会社の近畿車輌とそれぞれ別の会社で製造されています。

あと考えられるのは……同じメーカーで幌を製作しているかもしれない、それくらいでしょうか。両社がベースを置いている大阪には、確か幌製造メーカーとしても知られるその名も「(株)ジャバラ」(本社・大東市)があります。これはあくまでも推測ですが、この独特のたたずまいを見せる幌/幌座はジャバラ製のものなのかもしれません。このあたりの事情をもしご存じの方が居られたら、ご教示いただければありがたいです。


3「幌座」ここまでのまとめ


それでは最後に、「幌座のいろいろ」として、ここまで取りあげてきたものをまとめておきましょう。

(1) 旧国鉄型タイプ…ガイドレール状のもの
 -①:厚みのあるもの【例】直流型電車・交流型電車(717系以外)・交直流電車(413・415系以外)
 -②:厚みのないもの【例】717系電車・413・415系電車(Tc401/411)・一般型気動車各形式
【関連記事】
●第33回:「幌座」のいろいろ(1)~旧国鉄型電車
●第35回:幌座のいろいろ(2)~国鉄型ディーゼルカー
●第36回:幌座のいろいろ(3)キハ41-2001

(2) JR西日本クモハ125型電車…貫通路ユニット埋込=そのまま幌座を兼ねる。
【関連記事】
●第38回:JR西日本125系電車の幌座~幌座のいろいろ(4)

(3) JR東海キハ85系気動車…アタッチメント状の大きな幌座
【関連記事】
●第39回:JR東海キハ85系の幌座~幌座のいろいろ(5)

(4) 南海・近鉄タイプ…細溝状のもの
<今回記事>

(5) その他特徴的なもの…自動着脱装置の幌受け【例】JR北海道731系電車JR九州813系電車
【参考画像】
■731系・Tc731-101/札幌駅080726
■JR九州813系RM1003編成(クハ813-1003等)+RM227編成@小倉:2008年5月


ここまで6回にわたって「幌座」の特集を続けてきましたが……このテーマで書くまでは、率直に言って「幌の付いていない側」にはほとんど関心がなく、実際「観測記録」を残す際も専ら「幌の付いている側」だけが撮れればそれでよしとしていたところがありました。しかしながら、色々なタイプの幌座をリサーチしていく中で、かなり考え方が変わってきました。つまり、幌を受ける側の形態にも興味が俄然湧いてくるようになってしまったのです。「病薨じてなんとやら」というわけではないのでしょうが、私の「貫通幌」を追い続ける”旅”は一体どこまで続くのか、また新しい方向性を見つけだしてしまった、といったところでしょうか。


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★近鉄モ6422:道明寺線2002.05(はてなフォトライフ)
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近鉄電車も南海同様に「前パン・前幌」のラインナップがある…